Wizard Notes

Python, JavaScript を使った音楽信号分析の技術録、作曲活動に関する雑記

東方プロジェクト原曲(紅魔郷~輝針城)のBPM分析

概要

おそらくBPM(テンポ)は、音楽を区別・認識したり音楽ジャンルを体系化したりするための、最重要な手がかりです。 そこで、BPM(テンポ)を使って身近な楽曲で音楽コンテンツを分析できないかと考えて、東方プロジェクト原曲(紅魔郷~輝針城)のBPM(テンポ)分析をやってみました。

当初は「ボス曲はテンポが速めな傾向かな」ぐらいを確認できればよし、というつもりでしたが、思った以上に興味深い分析結果が得られて驚きました。また、個々の楽曲や作品だけでなく、ゲームというコンテンツの創作自体にBPM(テンポ)が深く関わっている可能性があるかもしれないことが確認できました。

それでは、東方プロジェクト原曲のBPM分析結果について解説していきたいと思います。

注:この記事では、個々の楽曲を掘り下げず、作品や利用箇所ごとに傾向があるか分析しています。

データ収集について

以下のような方法およびポリシーでデータを収集しました。

以上により収集した全148曲について、BPMをプロットして何らかの傾向があるか分析していきます。

BPM分析結果

1. BPMプロット

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東方プロジェクト原曲のBPM

まず、全148楽曲のBPMをそのままプロットしてみました。水平軸の右側ほど最近の作品です。

これだけでも、最近の楽曲ほどBPMが大きい=テンポが速くなっている傾向があることが分かります。ただし、ピークは地霊殿星蓮船あたりで、輝針城はそれらよりも遅めなになっていることも見て取れます。

また、BPMヒストグラムを見てみると、どうやらBPMの大小、つまりテンポが遅い曲と速い曲の2つクラスタがあるようにも見えます。そこで、曲の用途(利用箇所)によって分けてプロットしてみます。

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BPMヒストグラム

2. 道中+ボス曲 vs その他

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道中およびボス曲のBPM

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道中とボス曲を除く楽曲のBPM

上は道中およびボス曲のBPM、下がそれらを除いた楽曲のプロットです。

楽曲の分布が綺麗に別れました。非常に興味深い結果です。

道中およびボス曲のBPMは140以上であり、それ以外、例えばタイトル画面やエンディング、スタッフロールなどの曲は比較的遅めのテンポであることが分かります。なお、下のプロットのBPM160付近の楽曲は永夜抄のラストワードのものなので、上のプロットの方に含めるべきでした。

つまり、操作中とその他のシーンで使われている楽曲のBPMは異なる傾向にあると言えます。もしかすると、操作中ではないときは気を緩めるような、逆に操作中は気を引き締める・緊張感を演出するためにこのようなBPMとなっているのかもしれません。

なお、地霊殿のタイトル画面の曲"地霊達の起床"はBPM=154と初っ端から早いです。地霊殿の難易度の高さを物語っているような気がします。

3. 楽曲の利用箇所別(e.g. 道中、ボス、タイトル画面、etc.)

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楽曲の利用箇所別BPM

もう少し、楽曲の利用箇所別に細かく分けてプロットしてみました。

  • スタッフロールはBPM110~140と遅め
  • タイトルはBPM120-160
  • エンディングはBPM140付近
  • ボス曲・道中はBPM140以上
  • ボス曲より道中のほうがBPMの分散が大きい傾向がある

ところで、音楽ジャンルでBPM140というと、EDM(BPM125~135くらい?)よりも速く、トランスといったジャンルが思い当たります。ゲームにのめり込むための楽曲としてはちょうどいいBPMなのかもしれません。

4. 道中 vs ボス

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ステージ別BPM (道中)
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ステージ別BPM (ボス)

ボス曲と道中に絞ってみていきます。 1~6はステージ番号を表しています。ただし、7はエクストラです。

  • 道中
    • BPM140 - 190、ばらつきが大きい
    • BPMのばらつきは、最近の作品にかけて大きくなっている…?
  • ボス曲
    • BPM140 - 180、道中よりも分散は小さい
    • エクストラは適度にテンポが速い?(BPM160~170くらい)

テンポのばらつきは、ボス曲よりも道中のほうが大きいというのが意外でした。

5. 各作品の傾向

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各ゲームごとの道中+ボス曲

こちらのプロットでは、1~6+エクストラの道中+ボス曲を各作品で色分けしてプロットしています。

紅魔郷妖々夢と比べると、近年の作品はテンポが速くなっている傾向がありそうです。また、近年ほど作品内の楽曲のテンポのばらつきが大きくなっているようにも見えます。つまり、近年の作品ではテンポの落差で緩急をつけている傾向があるといえます。

作品単位で眺めると、序盤よりも後半の楽曲の方がBPMが大きくなっているようにも見えます。 妖々夢地霊殿後半をプレイしていると疾走感を感じるのは、楽曲のBPMが関係しているかもしれません。

また、曲を繋いだ線は、割とギザギザしています。つまり、同じようなテンポが何曲も続いておらず、ステージチェンジやボス戦前後でテンポに緩急を付けていると思われます。

まとめ

東方プロジェクト原曲のBPM分析方法とその結果について解説しました。分析の結果として、

  • 道中+ボス曲はBPM140以上で、比較的テンポが速い
  • 道中+ボス曲以外は多くがBPM150以下で、比較的テンポが遅い
  • ボス曲より、道中の曲のほうがテンポの分散が大きい
  • 近年の東方原曲はテンポが速くなっている傾向がある。また、テンポの幅も広くなっている傾向がある。
  • ゲームの進行に応じて、テンポの異なる楽曲を上手く織り交ぜているように見える

ということが分かりました。

そのステージの世界観の演出したり、プレイ全体の緩急や緊迫感を出すことに楽曲のBPM(テンポ)が深く関わっているように思います。

補足

分析に利用したデータ

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